電力システム改革の推進により、電力の自由化という新しい仕組みが生まれました。それに伴い多くの企業が「新電力」として電力業界に参入してきました。
これまで地域の電力企業が独占してきた電力業界は、公益事業の役割も担うユニバーサルサービス(誰もが等しく受けられるサービス)でしたから、電気料金なども国が規制を行っていました。
しかし電力自由化は、それらの規制がない自由競争の世界です。既存の地域電力会社や新電力各社が、電気料金や付加するサービスの内容を自由に決められます。
システムの改革は、消費者にとっては「電力利用を便利にする」、電力業界に参入した企業にとっては「新しい事業の創生」というメリットを生む仕組みでなくてはなりません。
そのため新しい仕組みに対する監視体制の必要もでてきます。その中で設立されたのが「電力広域的運営推進機関」と「電力・ガス取引監視委員会」です。
どちらも堅い名称ですので覚えづらく、実際にはどのようなことをしている機関なのかが分かりづらいところです。
ここでは、この「電力広域的運営推進機関」(以下「広域機関」)と「電力・ガス取引監視委員会」(以下「電取委」)の仕組みと我々消費者にどのように関わっているのかについて解説していきます。
1. 電力システム改革の流れ
広域機関、電取委の仕組みを説明する前に、電力システム改革がどのように進められてきたのかをご説明します。
電力システム改革は1990年代から議論が進められ、順次、自由化が行われてきました。
- 1995年:発電部門の自由化
- 2000年:特別高圧(大規模工場などが対象となる契約電力2000キロワット以上の需要家)の小売部門の自由化
- 2004年:高圧(中規模工場などが対象となる契約電力500キロワット以上の需要家)の小売部門の自由化
- 2004年:日本卸電力取引市場(JEPX)が創設
- 2005年:高圧(契約電力50キロワット以上の需要家)の小売部門の自由化
これらの自由化により電力需要に占める60%までが開かれたことになります。しかし、新電力のシェアは6%程度で大手電力会社の独占体制にはほとんど影響がありませんでした。
また国民の関心も低かったと言えるでしょう。電力供給が地域独占で行われてきたことで、ほぼ停電のない、安定した電力品質が保たれていたからです。
この電力システム改革が大きく動き出したのは、東日本大震災後に電力安定供給の仕組みが崩れたことによります。
それまでの地域独占での電力供給の仕組みでは、足りない電力を他地域から融通するという環境が整備されていませんでした。
そのため2012年から新しい電力システム改革の議論が始まり、改革の柱は以下の3つにまとめられました。
- 全国規模で電力をやりとりする機関(広域機関)と電力システムの審査役(電取委)の設置
- 小売りの全面自由化
- 発電送の分離(発電送分離は2020年度までに行う)
広域機関と電取委は、このようにして電力システム改革の中で設立されてきたのです。
2. 電力広域的運営推進機関(広域機関)とは
電力広域的運営推進機関(広域機関)は、電力システム改革に伴い2015年4月に設立されました。主な業務は以下になります。
- 緊急時の電力供給の指示を出す
- 需要計画と系統計画をとりまとめ、広域的な運用の調整を行う
広域機関は、独占体制での課題のひとつであった、「地域間の電力を効率的に使う」ための組織です。全国の需要と供給の状況を監視し、ある地域で電力が足りない時には、他の地域の会社に電力を送るように指示する権限があります。
また、将来の電気需要に足りるだけの発電設備が整っているかの監視も行います。全国規模での監視ができることで、電力の安定供給や競争の促進にもつながっていきます。
3. 電力・ガス取引監視委員会(電取委)とは
電力・ガス取引監視委員会(電取委)は、2015年9月に設置されました。電力自由化に伴い電力を売るだけではなく、電力を仕入れる市場も活発になってきます。
その電力市場が公正なものになるように監視する中立機関です。2017年4月から同じく自由化のはじまった、ガス市場も合わせて監督下に入ります。
具体的には、小売電気事業者の登録における審査を行ったり、事業者に対して立ち入り検査や業務改善勧告を行う組織です。
電力会社を自由に選べるようになった消費者側からすると、契約の際のトラブルなどに対処してくれる機関でもあります。
4. まとめ
広域機関も電取委も新電力も「電力システム改革」の中で誕生してきました。いずれもガスを含む電気など熱供給の自由化にあたって、安定的な供給と健全な市場を維持していくことで、国民全体のメリットとなるような関係性を保っています。
熱供給の全面小売自由化はまだ始まったばかりであり、これからも活性化させていくべき改革です。
仕組みが整い全ての人が自由化の恩恵に預かれるよう、我々消費者もこれからのシステム改革を気にしていくべきだと考えます。
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