第二次世界大戦後、日本の電力業界は全国に10社ある大手電力会社(旧一般電気事業者)が、地域独占という形で発電から電力供給までを行ってきました。この仕組みを大きく変えたのが電力自由化です。
電力業界は「発電事業」「送配電事業」「小売り事業」の大きな3つの柱によって成り立っています。電力自由化とはその全ての事業の自由化を指しますが、ここでは私たち消費者にとって最も関係が深い「小売り事業」の自由化を支える『新電力』の仕組みについて解説していきます。
新電力への切り替えで受けられる恩恵のひとつに「電気代が安くなる」ということが揚げられますが、これには新電力の仕組みが関係しています。また注意したいのは、電気代が安くならないケースもあるという点です。
このページでは、新電力が安い理由と電気代の鍵を握る負荷率の仕組みについて解説し「新電力導入によって電気代を安くできるのか?」の判断材料にしていただけるようにしました。
1. 新電力が安い理由とその仕組み
電力小売りの自由化により、私たちは「電気をどの会社から買ってもよい」という選択肢を手に入ました。新電力と呼ばれる電気小売り事業者が、電力市場に多数参入し各社が特色を活かした多様なプランを提示しています。
電力需要家である消費者にとっては、それこそ『よりどりみどり』にプランを選べるようになったわけです。しかしそれは選べる自由度が増えた分、仕組みを理解し賢い選択をしていかなければならないということです。
自社や自分たちの事業にとってより良い選択ができるよう、新電力が安い理由と仕組みについて解説します。
1-1. 低コストで運用ができる仕組み
新電力は、従来の大手電力会社(東京電力や関西電力など、全国10社の地域電力会社)のような大規模な発電施設を持っていません。電力の仕入れは自社所有の小規模発電所、電気の卸売り会社(卸電気事業者・卸供給事業者)からの仕入れ、余剰電力の買い取りなどでまかなっています。
つまり大規模発電施設を保有していないことで、設備にかかる経費やランニングコスト、人事費などコストの高い部分を低くおさえることが可能です。
また新電力は運営自体を少人数で行っている企業も多く、低コストで得た運用利益を電気料金に反映させる仕組みになっています。
1-2. 効率的な運用が可能な新電力
大手電力会社である一般電気事業者は、長年にわたり「ユニバーサルサービス」という公益的なサービスを担ってきました。誰にも等しく電気を供給する義務があったため、地域独占での経営が許されていたわけです。
等しく電気を供給するためには、常に大規模な電力を確保する必要があります。また、あまり電気を使わないような場所や人、どのような地域にも電気を送らねばなりません。
しかし新電力は、ユニバーサルサービスを提供する必要がありませんので、電力の売り先を選ぶことが可能です。
つまり「電力消費の多い企業などに優先的に電気を販売する」「利益率の高いところへのみ販売を行う」など、効率の良い経営を行うことで利益を確保しています。
1-3. 電気を安く仕入れる仕組みと工夫
大手電力会社の電気の仕入れは、自社の大型発電施設からの供給に頼っています。ですから例えば震災後の原子力発電の停止による電力供給不足は、ダイレクトに電気料金の値上げとして反映されてきました。
新電力は前述した通り、自社による大型の発電施設を所有していません。そのため様々な方法で電気を仕入れ、販売を行っています。
「電気の卸売り会社から安く仕入れる」「自家発電設備を持つ企業などの余剰電力を買い取る」など、電気の仕入れ先を工夫しています。
このようにして仕入れコストをおさえることで、電気料金を安くすることが可能になっているのです。
1-4. 利益の出る範囲での料金設定
ユニバーサルサービスを担う大手電力会社の電気料金には、電気を安定供給するためのインフラ整備費も含まれています。
しかし新電力はインフラ整備費を考える必要がありません。もちろん経営安定化のためのコストはかかりますが、電気料金の設定は「利益がでる範囲」で設定すればよいわけです。
大がかりなインフラの整備費を電気料金に含ませる必要がないことで、電気代を安くおさえることが可能になっているのです。
1-5. 電力事業以外からの収益
新電力に参入した企業の多くは、別事業を行っているケースがほとんどです。ガスや石油の販売事業、通信・携帯電話事業、鉄道事業、総合商社など、その業種は多岐にわたっています。
それらの事業の付加価値を高めるために新電力事業に参入している企業も多いので、コストの全てを電気料金でまかなう必要がありません。
各種サービスなどと組み合わせることで、相乗的に売り上げを立てることを目指していますから、電気料金を下げられるというわけです。
2. 電気代の決め手となる負荷率の仕組み
新電力への切り替えで電気料金が安くなるかどうかの鍵を握っているのが「負荷率」です。つまり電気代が安くならないケースは負荷率が関係している場合が多いわけです。まずは負荷率の仕組みを理解しておきましょう。
2-1. 負荷率の算出方法
負荷率とは、一定期間内の「平均電力」と「最大電力」の比率を示したもので、契約電力量に占める実際の電力使用量を表します。
負荷率の計算は以下のように行います。
【負荷率計算式】
年間負荷率
=年間消費電力量〔kWh〕÷(契約電力〔kW〕×365〔日〕×24〔時間〕)×100
(ちなみに日本全体の年間負荷率は、55~65%)
日負荷率
=1日の消費電力量〔kWh〕÷(契約電力〔kW〕×24〔時間〕)×100
負荷率は、その値が大きいほど一定期間内の「電気使用量の変動が小さい」ことを意味します。つまり、電力使用量が1年(または1日)を通して平均的で、電気使用のピーク時と使っていない時の差が少ない状況です。
この負荷率を算出することで、需要家(消費者)の電気の使い方を判断することができます。
例えば負荷率の高い施設とは、工場、ホテル、病院、24時間営業の店舗など、電力設備を継続的に稼働させる時間が長い業種や業態になります。
逆に負荷率の低い施設とは、官公庁、学校、スキー場、スポーツ施設、事務所ビルなど、電力を使用している時間や期間が、使用していない時とはっきりと分かれている業種・業態になります。
3. 新電力で電気代が安くならないケース
従来の大手電力会社は火力発電などの大規模発電施設で電力を供給しています。そのため発電施設を一定の出力で稼働させ続けた方が効率が良いわけです。
ですから年間や1日を通して電気の使用量の変動が少ない=負荷率の高い需要家(消費者)の方が、電力単価を安くおさえることができ、負荷率の高い需要家にはお得な料金プランを用意していました。
つまり負荷率の高い事業所はすでに電力単価が低い場合が多く、新電力に切り替えても電気料金が下がらない可能性があるわけです。一般的に新電力への切り替えで電気料金が安くなる目安は、負荷率が25%~30%の事業所と言われています。
負荷率は上記の計算式に当てはめることで算出できます。また新電力に切り替えることで、電気料金がいくらになるのかはシミュレーションすることが可能です。
新電力への切り替えを検討する際には、それらの算出結果を元に電気料金が安くなるかを調べてみる必要があります。
4. まとめ
事業所にとって電気料金は、毎月かかる経費です。この経費を少しでも安くできるのであれば、新電力へ切り替える大きなメリットとなることでしょう。
ただし上述したように、必ずしも全ての事業所の電気料金が安くなるわけではありませんし、新電力は新しい取り組みであるがゆえに、まだ不透明な部分がないわけではありません。
新電力の仕組みを理解し、切り替え後の電気料金を必ずシミュレーションしてみましょう。また様々なケースを想定した上で新電力への切り替えを検討していくことが大切になってきます。
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