新電力がまるわかり!事業者の仕組みと課題に迫る

新電力

ユーザーにとっては、新電力と既存の電力会社との違いや、事業者はどういう仕組みで電力事業を行っているかがわかりにくいと思います。

そこで今回は新電力事業者は一体どのように電力を供給して電気を販売しているのか?課題や今後の展望なども説明していきます。

1. 新電力と一般電気事業者の違いとは?

現在新電力は、自社の販売する電力を一般電気事業者の送電線を利用して配電や送電を行っています。

これは「託送」といわれる仕組みで、この仕組みにより自社ビルや工場、大規模施設などの高圧需要家へ大手電力会社よりも安価な契約プランを提供しているケースがあります。

両者の一番の違いは何といっても、「ベースロード電力」と言われる主力電源の所有の有無といえます。

一般電気事業者は原子力、火力、水力などの「ベースロード電力」(大規模発電施設)を有していますが、新電力はほぼこういった大規模施設を所持していません。

大規模な工場や医療機関、ホテルなどは24時間安定して供給できるベースロード電力が必要です。

したがって新電力は比較的高負荷率のユーザーよりも、低負荷率のユーザーに向けて電力を供給している場合が多いです。

低負荷率のユーザーとは、電力の消費量に波があるユーザーの事です。例えば、学校や図書館などは昼間の消費量が高いですが朝と夜は消費量が少ないという例です。

新電力は、大規模設備費や管理する人件費を必要としないことを生かして、電力の基本料金を下げて提供することが可能です。

さらに太陽光や風力、バイオマスといったエコエネルギーを活用して供給したり、一般電気事業者から電力を購入して供給するなどしています。

参考までにですが、最近は新規で進出する新電力が多いことから、どの事業者を選択してよいかわからないユーザーのために、おすすめの新電力の提案や契約の代理をしてくれる「新電力代理店」も増えてきています。

この「新電力代理店」は新電力との契約になります。

2. 新電力と供給の仕組み

新電力として電気小売業をするためには一定の手続きと審査が必要です。また電力の仕入れも方法が様々です。

2-1. 新電力として電力を売るためには?

2016年4月から電力自由化により、電力小売業を行うためには「電力広域的運営推進機関」への加入と経済産業省の登録審査を受ける必要があります。さらに経済産業省の直属組織である電力取引監視等委員会での審査をパスして初めて小売を許可されます。

経済産業省では外局にあたる資源エネルギー庁という機関で電力の安定供給ができるかどうかを調査しています。

電力取引監視等委員会は市場の監視や健全な競争を促進するための組織でユーザーと新電力との間で問題がなくスムーズな取引ができているかどうか、契約前の説明義務、契約時の書面交付義務、苦情処理義務を果たしているかどうか、を調査しています。

2-2. 供給の仕組みは?

①新電力の電力供給の仕組み

新電力の電力供給の仕組みは様々です。再生可能エネルギーを売りにしている事業者もいますし、大手電力会社や一般企業の発電所から仕入れている事業者もいます。

地域によっても特色があります。例えば、日照時間の長いエリアは太陽光発電、海岸沿いのエリアは風力、森林地帯はバイオマス発電といったように地域の特色を生かした発電をしている新電力もあります。

現状では、新電力の発電はほぼ100%近くが火力発電といわれています。他の事業者から電力を購入する場合でもやはり火力発電がメインとなります。

火力がメインであれば、もし燃料費のコストが下がれば売電価格も下がるということになりますが、燃料源は石炭、石油、LNG(液化天然ガス)が大半を占めます。

現在では石炭の価格が安いですが、固形物の為、輸送費や設備費、CO2排出といった課題が出てきます。

②電力供給の流れ

ユーザーの区分けとしては、大規模工場やデパートといった2000kW以上の電力が必要な特別高圧の需要家、中規模の工場やオフィスなどの50~500kWの高圧の需要家、一般家庭やコンビニや個人商店などの50kW未満の低圧の需要家という区分があります。

発電所で発電された電気は電圧が20万V~50万Vといわれていますので、各変電所で降圧してから各需要家へ届けられる仕組みとなっています。

特別高圧の需要家には1次変電所で各発電所から11万V以上の高圧電力を2.2万~6.6万Vまで降圧させて特別高圧電線路を経由して供給されます。

高圧の需要家には一次変電所で降圧された電気を配電用変電所へ送り、2.2万~6.6万Vを6.6千Vにまで下げてから配電されます。

低圧の需要家には、配電用変電所から電柱に備えてある柱上変圧器で100V~200Vに降圧してから低圧電線路を通って配電されます。

このように各区分によって電力供給ルートが異なります。

③電力不足の心配は?

新電力はいきなり電力不足で供給が止まってしまうのではないか?という心配もあるかと思いますが、その心配はありません。

新電力と契約をしても送電線が変更になることはありませんし、もし電力不足に陥っても大手電力会社から電力を融通してもらえるようになっています。

新電力に切り替え後、倒産などで万が一電力供給が不可となれば電気が止まる15日前までに通知が来る仕組みとなっていて、通知が来たら別の新電力か大手の電力会社と契約をすれば、切り替えが完了します。

2020年までは大手電力会社が全世帯に電気を供給するという国の規約が決められているので、永続的な規約ではありませんが、急に電力供給が止まることはありません。

3. 新電力の課題

新電力にはメリットだけではなく、課題も存在します。価格が安いからといって安易に切り替えるのはリスクがあります。

3-1. 価格だけで選択は危険?

新電力を選択する際には、誤ったプランを選んだためにむしろ電気代が高くついたと言うケースもあるようですので注意が必要です。また解約時に解約金が生じるケースもあるようですので事前の念入りな確認が必要と言えます。

一般電気事業者よりも安いからといって価格だけで新電力を選ぶと後々痛い目に会うかもしれません。新電力は価格が安いというのが売りですが、大規模な電力供給源を持っていないのでそのために電力供給不足という事態にも陥りかねません。

中には電力の薄利多売で電力が調達できず、倒産してしまったという新電力もあります。資金力のない新電力が薄利で電力を販売し、仕入れに高いコストをかけなければならない状況になるのはどの新電力事業者も抱えている課題と言えます。

現状新電力の中でも、安定した経営をしている企業は、やはりいくつかの大手が出資して設立した合弁企業です。これらの企業は、大規模な自然エネルギー発電所を作ったり、ユーザーに魅力的な料金プランを提供しています。

新電力事業の中で一番コストがかかるのが、電力購入費です。新電力にとっては、いかに電力購入費を安く抑えるかがポイントといえそうです。

3-2. 電力システムの整備

ユーザーがしっかりと新電力を選択できる環境づくりのためには、安定した広範囲の系統運用機関や発送電分離による公平で中立的な送配電網の体制確立が必要と言われています。

既に欧州では各社への所有権分離が進んでいますが、日本においても2020までに実施が予定されている送配電網の体制確立が急務と言えます。

これはなぜ必要かというと、自然エネルギーの本格的な導入に必要な給電源よりも、既存の原子力や、火力発電が優先されたり、電力会社によっては、系統接続ルールが不透明に実施されたりしているケースがあるからです。

また過大な工事負担金や既存の電力会社のシステム計画を優先した空容量が0と回答されて実質的に電力供給接続が拒否されている現状があるようです。

日本では、原子力や火力発電などがベースロード電源となっていることから、欧州並みの自然エネルギー発電普及の為に、発送電の分離の実現、電力システムの改革が必要です。自然エネルギー発電所の電力を優先的に送電線につなぐシステムと安定的に電力を供給するルール作りが必要です。

4. 新電力の今後

経済産業省は、今後市場の活性化のために2004年「日本卸電力取引所」という機関を創設しました。この機関は全国で自由に電力の取引ができるように設置された機関です。

従来は電気事業を行う地方公共団体が特定の電力会社だけに売電しているケースがありましたが、市場活性化のためにガイドラインを策定するなどして対策をしています。

前述でも触れたように、今後は薄利多売の新電力は競争が厳しいと言えます。いかに競争力のある発電源を持っているかが勝負の分かれ目と言えるでしょう。

また多くの発電源を持ち、供給のニーズに対応出来る企業が有利なのは言うまでもありません。新電力の市場は非常に大きいので、今後様々な業界からの参入が見込まれています。

そのため新電力間での激しい競争が避けられませんが、その分ユーザーには魅力的で多様性のあるサービスプランが期待できます。事業者にとっても競争は激しいですが、ビジネスチャンスが大いにあると言えるでしょう。

5. まとめ

新電力と一般電気事業者との違いは、ベースロード電源と言われる、大規模発電施設の所有の有無や既存のサービスにはなかった、料金プランやエコ発電を活用した電力供給サービスにあると言えます。

今後さらに多くの新電力の参入や多様なサービスが期待できますが、ユーザー側からも新電力はどの電力供給源をもっているのか?きちんと業者登録や政府から認可を受けている事業者なのかもよく見る必要があります。

また上手く活用できれば、電気料金のコスト削減やエコ電力の使用など、メリットが大きいケースがありますが、電力の薄利多売のために事業が厳しくなる新電力もでてきています。

今後は政府のガイドラインの整備、市場の公正な取引、活性化のための「日本卸電力取引所」の活用、自然エネルギーをどう優先させるか?などの整備が必要です。大きな市場なだけに、ユーザーにとってわかりやすく透明性のあるサービス提供が期待されています。

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